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書いてみる。書き物を趣味にしているからね。
例えば、クソ真面目文体の異世界召喚モノとか……
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鉄臭い平原にいた。
中天に射す陽光は眩く、噎せ返るような血臭と人いきれに、幾ばくの時も経ることなく汗がこめかみを伝い始めた。
大地に散るは彼岸花を思わせる程に紅く染まる種草。そして血化粧を纏う鎧騎士が辺り一帯に転がっている。
恐る恐るそのうちの一塊へ近づくと、まだ息のある者がいた。
「ぅぁ、悪魔……め……」
もう何も感じ得ないのか、正面に立っても気付く様子はない。
「悪魔……おの、れ……」
呼気は掠れ、乱れ、平原を渡る風の音にすら届かないほどの声量でありながら、繰り返されるその呪詛は耳に長く蟠った。
しかし、それも長くは続かず、やがて風に巻かれて消えた。
この状況に何も思わないわけではない。ただ、現実感があまりにも乖離しすぎている。惨状と呼ぶことすら憚られる光景に、吐き気すらも引っ込んだ。
僕は直前まで何をしていただろうか。スーパーで買い物をしていただけだった気がする。暫く思索に耽ってみるが、これ以上は何も思い出せない。まるで記憶に暗い靄のようなものがかかっているようだった。
詮無いことを続けることに飽き、周囲を見渡す。一方に森、その反対側になだらかな山。いずれも遠い。だが森と山を前後にして東西は平原が地平線まで広がり、どちらかにしか行く宛はなさそうだ。
よく見れば、地面はこの周囲を中心に緩やかな上り傾斜となっていて、所謂すり鉢状の窪地だと分かる。ならば、この状況を把握するには、多少体力を使っても山に向かうべきだと判じるのも当然と言えた。
吹き渡る風はいっそ清々しく、晴天の日和だと言うに、足は重石を載せたように遅い。上だけを見ていればピクニックだのに、下を見れば地獄が広がっている。
鎧騎士は皆一様に身に纏う鋼鉄をすり潰され、人によっては中身が漏れ出しているほどに圧迫された者もいる。一見して大丈夫そうな騎士もいたが、先ほどの彼を除いて誰もピクリともしない。余程強烈な衝撃でも浴びたのだろうか。
陰鬱な雰囲気の中を歩くうちに、山の異観が顕になってきた。
何かしらの余波は受けているだろうが、平原と違い草木は疎らに茂り、まだ生物が息づく環境にあるようだ。
僅かに残る希望を胸に、歩幅を広げた矢先、どこからかくぐもった声が聞こえてきた。
周囲には死体の群れ。動く気配は見られないが、声がする方向を頼りに視線を巡らせると、一段と折り重なるように人が積み上がっている場所があった。
まさかと思い駆け寄ると、やはりそこから泣き声がしていた。
折り重なっているように見えたそれらも陣を組むように意図的な並びをしており、中心に居る者をその身を呈して、潰されないように守っているようだった。
すり鉢地形の中心側にいる騎士の鎧は大きくひしゃげていて、その向かいにいる者は中心側より多くひしゃげ方もやや緩いようだが、何かしらの要因か既に物言わぬ壁と化している。
がっちりとお互いを噛み合わせるように組まれた城壁を少しずつ取り崩す。接着したように外れない。
外側から削るのは早々に諦め、近くの鎧騎士が所持していたであろう鉄剣を拝借した。これからするのは亡くなった者に対して申し開きのしようもない暴挙だが、生きている人間を救えるのなら、きっと彼らも許してくれるだろう。
そう勝手に結論づけながら、鉄剣を死体要塞の足元に滑らせる。想像より重すぎて失敗した。振り抜けた鉄剣が手近な騎士の腕を一本持っていった。すまない。
焦り過ぎは良くないと思い、回収した剣を何度か素振りする。そしてさっきより勢いを抑えながら振るう。
騎士たちの足元が崩れ、密だった陣も風が通るようになった。接合部を掻き分け、小柄な人ならギリギリ出入りできるくらいの隙間が空いた。
少し前から泣き声が止んでいて人物像ははっきりとしていないが、そこから奥を覗くと、他と同じようで、それらより一回り以上小さな鎧を身につけた騎士の背中が見えた。
そして、その背中の主がこちらに向いて――
惚けたような顔をした少女と目が合った。
(つづく)
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話の流れというか文章の繋ぎ方とか下手くそ過ぎてつまらないことは否定しないゾ☆ミ |
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