アメリカで言われる「財政の崖」とは何?
来年1月、アメリカで、史上かつてない大増税と財政支出の急激な削減が同時に起きることです。
アメリカの共和党は「小さな政府」の政党です。その根本にあるのは減税政策。
政府にお金を持たせないことで、活動規模を小さくしようということです。これに沿って、ブッシュ前大統領(2001~09年)は、アメリカ史上でもかつてない規模で大幅減税を実施しました。しかし、それは恒久減税ではなかったので、今年(2012年)末に一斉に期限を迎えることになりました。新たな法律を作って減税を延長しない限り、来年1月から大増税となります。規模は10年間で5兆ドル程度とも言われています。
一方で、共和党の要求に応じて昨年8月、民主・共和両党は政府支出の大幅削減を目指すことで合意しました。その際に、今年中に削減案の合意が成立しなかった場合には、来年1月から強制的に、10年で1.2兆ドルの政府支出削減を実行するという内容も盛り込まれました。
その結果、来年1月には大増税と大幅な財政緊縮の両方が、同時にアメリカ経済に襲いかかることになったのです。その規模は2013年単年度では約6000億ドルと巨額で、両方とも景気を冷やす効果を持っているため、株価の3割が吹き飛び、アメリカの国内総生産(GDP)を3~4%下げる効果があるだろうと言われています。欧州で進む経済危機に加えて、脆弱ぜいじゃくな米国経済が危機に陥れば、世界経済に与える影響は深刻です。国際通貨基金(IMF)は2012年7月、「財政の崖」を名指しして、米議会に対し混乱を回避するための減税措置や歳出政策をめぐる合意を急ぐよう求めました。
大統領選挙が終わり、共和党とオバマ大統領は合意を目指して協議を急いでいますが、先行きは不透明です。両党とも、何らかの減税延長策が必要ということで一致していますが、オバマ大統領は高額所得者に対する減税延長を拒否して増税を求める堅い姿勢を示しています。これに対して共和党は、高額所得者も含めた全国民の減税延長で譲りません。大統領選挙は民主党勝利でしたが、下院選挙では共和党の勝利です。どちらも国民の支持を得たと主張して、妥協の兆しは見えていません。アメリカ版の"決められない政治"が続いています。
期限は、議会が休会に入るクリスマスです。聖夜の翌日には、底知れぬ崖が待っているかもしれません。
http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/qaworld/20121127-OYT8T00922.htm